介護・認知症
高齢者が骨折しやすい理由って?高齢者の骨折~基礎知識を知ろう
65歳以上の高齢者が転倒事故を起こす確率は、年間10~20%。そのうちの10~15%が骨折に至ります。高齢者が骨折する理由を挙げます。
運動能力の低下
身体機能全般が低下し、特に歩行が不安定になります。歩幅が小さく、足をスムーズに前に出しにくいので、つんのめるように歩きがちです。
足を高く上げる筋力が衰えて、両足の接地時間が長い「すり足歩行」が見られ、小さな段差や平らな場所でも容易につまずいてしまいます。
運動能力が維持されていれば、つまずいても足を踏ん張って持ちこたえる、バランスを取る、とっさにどこかにつかまるといった反応ができます。しかし、反応が鈍くなったり運動能力が低下していると、少しつまずいただけでそのまま転倒してしまいます。
転倒時も、衝撃を和らげるような「受け身」の体勢を素早くとることが難しく、無防備な体勢のまま勢いよく倒れ込んでしまうため、衝撃が大きくなります。体の柔軟性、バランス能力、俊敏性、筋力が落ちている高齢者ほど転倒しやすく、転倒した時のケガも大きくなります。
骨がもろい
同じくらいの衝撃を受けても、骨折する人としない人がいます。これは、骨密度をはじめとした骨の強度が違うからです。
骨密度とは、骨の中のミネラル(カルシウムやマグネシウムなど)含有量を単位面積当たりで数値化したものです。若年の成人の骨密度を100%とした時、80%以上なら正常、70%以下では骨折しやすくなります。
骨がもろくなると、骨粗鬆症という状態になります。骨粗鬆症の年齢別発症率は、女性では50代後半から、男性は70代以降増加します。75歳になると、女性の約半数、男性の約2割が骨粗鬆症です。
高齢者は無防備な体勢で転びやすく、骨密度が低下して骨がもろくなっているために骨折しやすいと考えられます。
高齢者の骨折~基礎知識を知ろう
高齢者の骨折の特徴をまとめました。
寝たきりにつながる可能性も
調査によれば、65歳以上の高齢者が寝たきりになる原因は、脳卒中、衰弱についで骨折が第3位になっています。
骨折した人の男女比は、男性約35%・女性約65%で、女性の方が圧倒的に多いのが特徴です。
骨折部位
骨折しやすい部位は、脚・胸・腕の骨折です。この3部位が全体の3分の2を占めています。
内訳は脚(大腿・下腿)24.4%、胸部23.6%、腕(上腕・肩・前腕)17.6%で、脚部の骨折が最多です。
骨折原因
骨折の原因は、転倒が大部分を占めています。
特に年齢が上がるほど転倒が原因の骨折が増えます。70代で61.7%、80代で73.2%の人が転倒により骨折し、90代では95.7%に上ります。
他にも挟む・ひねる・転落・ぶつけるといった原因での骨折もあります。骨がもろくなっているため、強い衝撃でなくても骨折に至るケースがあります。
骨折した場所
どこで骨折したかという場所の割合は、多い順に階段・道路・屋内の床・自転車・風呂場です。
屋内での骨折が全体の6割弱を占めています。階段での骨折のうち57%、床の54.7%、ベッドの54.5%、風呂場の53.5%が重症に至っています。
完治までの期間
骨折は、小さい骨ほど早く治ります。
目安として、指で2週間、肋骨3週間、鎖骨4週間、前腕(骨折1カ所)5週間、上腕6週間、下腿7週間、大腿骨12週間です。この期間は個人差が大きく、骨密度や日ごろの運動量によって異なります。
高齢者の骨折は年齢が上がるほど、特に女性に起こりやすく、屋内の転倒が大きな原因です。骨折部位は脚が多く、完治まで時間がかかるのも脚です。
高齢者の骨折治療~様々な治療法~
骨折した際の治療法は、骨折の部位と骨折の状態によってことなります。
基本は固定
高齢者に関わらず、骨折の基本的な治療は固定して骨がくっつくまで待つことです。
折れた骨がずれていなければ、ギプスやそえ木(シーネ)を使って固定します。
骨折した箇所を外部の衝撃から守り、動きを制限する役割をはたします。固定のみで完治する骨折は、比較的完治までの時間が短く、後遺症も残りづらいでしょう。
認知症の高齢者の場合、そえ木と包帯程度の固定では、自分で外してしまうことがあります。
ギプスでしっかり固定し、注意深く経過を見守らなくてはなりません。
骨がずれていたら
ずれた骨を正しい位置に戻す(整復)必要があります。
麻酔をした上で骨を皮膚の上から正しい位置に戻す徒手整復、おもりが付いた牽引装置で引っ張り続ける牽引といった方法があります。
牽引は、脚など周囲の腱や筋肉の引っ張る力が強く、骨がずれやすい部位の骨折に用いられます。直に骨を正しい位置に戻すため、皮膚を切り開く施術が行われるケースもあります。
手術が必要な骨折
ギプスやそえ木で外部からの固定が難しい鎖骨・肩・脛骨・大腿骨などの骨折は、手術で骨のずれを治し、金属のワイヤーやプレートを用いて骨を固定します(内固定)。
手術になるため体への負担が大きく、感染症の危険もあります。完治までも時間がかかります。
高齢者に多い大腿骨頸部骨折の治療
脚の付け根の骨折では、通所の固定も内固定も難しく、非常に治療しにくい部位です。内固定の手術を受けても完治しにくく、後遺症も残りやすくなります。
脚の付け根の骨頭を人口の骨頭と置換する、「人工骨頭置換術」では早くから体を動かせるため、長期安静からの衰弱を予防できます。
ひと口に骨折といっても、その治療法はさまざまです。高齢者の体力、その後の生活を見据えた治療が肝要です。
転倒により費やされる莫大な医療・介護費用!いくらくらいになる?
高齢社会の進展により、増加する高齢者の転倒は、骨折などのさまざまな重症外傷を起こして経済負担を増加させます。転倒・骨折にかかる医療費・介護費はどのくらいになるのでしょうか。
増加する大腿部頚部骨折
重症外傷のなかでも、特に大腿部頚部骨折は増加し続けており、直接原因の85%ほどが転倒に基づいています。
この事実から計算すると、転倒が全医療・全介護費用の約2%を費やしていることになります。
これらの費用をいかに効率よく削減できるかが21世紀の医療に求められている課題なのかもしれません。
転倒・骨折にかかる医療費・介護費
1. 大腿骨頚部骨折の発生数(人/年間 2002年例):117900人
2. 骨折に伴う医療費(132万円/人):1556億円
3. 骨折由来寝たきり高齢者(13.6%):16034人
4. 在宅要支援・介護者(330万人/402万人の比率):13162人
5. 在宅介護諸費用(要介護1)/年(16.58万×12月):198.96万円
6. 総在宅介護費用(4×5/年):261.9億円
7. 施設内要介護者(72万人/402万人の比率):2872人
8. 施設内介護費用(要介護3)/年(8440円×365日):308.06万円
9. 総施設内介護費用(7×8/年):88.5億円
10. 骨折に伴う総介護費用(6+9/年):350.4億円
11. 5年間要介護に伴う総介護費用:1752億円
12. 骨折に伴う総医療・介護費用/年(2+11):3308億円
13. 転倒に伴う医療・介護費用(12×2.2):7277億円
(引用元:「高齢者の転倒防止」林 日本老年医学会雑誌 44巻 5号(2007:9)(591~594ページ)
このように、転倒に伴う骨折が莫大な医療・介護費用を費やしていることは一目瞭然です。
骨折予防の側面から転倒に伴う医療・介護費用を抑えるためには、薬物療法で骨強度を高めて骨折しにくくすることに加えて、全国的に太極拳などのバランス運動を普及させて一次予防として転倒予防を図り、骨折を防ぐことが費用対効果の面で勧められるとされています。
(Photo by:http://www.ashinari.com/)
著者: カラダノート編集部